2005/07/31
ネットによっていきなり世界統一ランキングに放り込まれると努力するモチベーションを持ちにくくなる
将棋の羽生善治元名人が最近出した書籍『決断』の話から派生して面白い話題があったのでメモ。
世界統一ランキングが簡単に見えるようになって、井の中の蛙にならなくて済むようになったが、同時に井の中の蛙でないと、努力するモチベーションも生まれにくいという話です。
どの世界においても若い人たちが嫌になる気持ちは理解できる。周りの全員が同じことをやろうとしたら、努力が報われる確率は低くなってしまう。今の時代の大変なところだ。何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは大変なことであり、私はそれこそが才能だと思っている。これは羽生名人の言葉。報われないかもしれない努力をできることが「才能」というのは納得。
それを読んだ橋本大也さんはこう考えたそうです。
この文章を読んで、そうした継続できる情熱が育ちにくくなっているのが現代なのではないかと思った。情報化社会では、個人の才能はすぐに全国、全世界の統一ランキングのどこかに位置づけられてしまう。最初から上位になれる人は稀だ。大抵は何千位や何万位から始まる。それでは嫌になってしまう。かつては統一ランキングが見えなかったので、各地域のトップ、地域の秀才がそれなりに満足して存在することができたように思う。地域のトップに到達すると、さらに上の広い世界のランキングが見えて、新たな挑戦が始まっていた。徐々に拓ける世界展望というモデルが、多くの才能を育てていたのではないか。
この考えに対して、実際の例がいろいろ。
Game Programmerグループ - Nao_uの日記 羽生 善治著「決断力」
最近自分が感じた例だと、ドッツをはじめるときに現物が手元に届く前にすでにネット上で自分が作ろうと思っていたネタやものすごく手間のかかった大作などがたくさん公開されていて「わざわざ自分でやる必要があるのか?」と少しやる気を失いかけたことがあった。他人は他人、自分は自分と割り切って楽しめばどうということもないことなんだろうけど、あまりに高いレベルのものに簡単にアクセスできてしまうと、ステップアップに不可欠な「小さな自己満足」の機会が失われてしまう可能性があるのもまた事実だと思う。ここで出てくる「ドッツ」はdot'sかな?
その人のレベルにかかわらず行為そのものが十分に楽しければこういうことは問題にならないだろうから、ゲームを作るにあたっては一部の極端にハイレベルな人だけではないその他大勢のみんなが楽しめるように、ゲームの中で普通に遊んでいるだけでも段階的な進歩や満足感が得られるようしていくことを以前よりもより強く意識するとともに、「行為の楽しさ」や「達成感」を相対的な評価基準によらずに得られるような仕組みを考えていくのもいいのかもしれない。ゲームのプレイヤーに対する気遣いとして。
最近だとXboxLive対応の対戦格闘ゲームが非常に嫌な感じだ。気軽にオンライン対戦ができ、いつでもワールドランキングを参照できるというシステムは素晴らしいのだが、実際にやってみると負け数ばかり増えてランキング順位もプレイヤーランクもなかなか上がらない。アーケード版で相当な鍛練を積み、さらにXbox版も発売日当日からやり込んでいるような人たちがランキング上位にいる状況で、発売からしばらくしてXbox版を購入したプレイヤーが入り込める余地などほとんどない。
Game Programmerグループ - Nao_uの日記 ワールドランキングと達成感
XboxLive対応のゲームをやって、確かにこれは感じました。自分の場合、『ファントムダスト』だったんですけど、どんどん増えていく負けの数。数少ない一勝にほっとする気持ち。あとから、参入した人間の前には絶望的な壁がそびえ立ってます。
カーレースゲームの『Forza』では、XboxLiveに繋げていると一番最初に表示されるのは世界規模のタイムスコアで、自分のタイムのあまりの悪さに非常にいらつくという。しまいにはLANケーブル引っこ抜きますよ!(※もともとXboxの置いてある場所の関係で常時LAN接続はしてないんだけど)
で、この流れとは関係なく、オオツネさんが似たようなことを。
モヒカン族 - 「モヒカン族」に関する言及 - 「モヒカン族」に関する言及
羽生名人の将棋知識の高速道路のたとえ話を完全に裏返した視点で面白い。オオツネさんに聞いたら、この考えは、羽生名人の高速道路話の時に見かけたというので、オリジナルはもっと前かもしれません。自分の見た範囲では、橋本大也さんの辺りが初めてだったので、自分はもっと前に言ったよーという人はコメントやTrackBackでもしていただければ。インターネットによって知のコモディティ化が起こってしまい、昔だったら「村で一番将棋が強い」という優越感を持ちながら徐々に「町で一番強い人と闘う」「県で一番強い……」「都会に出て全国レベルで……」というような段階を踏んで行けたのけど。情報流通のコストがWebによってゼロに近づくと、いきなり「自分は全国ではこのランク」というのが分かってしまう。
さて、この状況に対する対策としては、世界統一ランキングが見えていても、自分の中で「小さな自己満足」を作っていくぐらいしか思いつきません。身近な人に対して勝ちたい!みたいな。あとは、そういった世界統一ランキングが存在しないところを開拓していくとか。
そういう意味では、言語の壁というのは、世界統一ランキングを成立させないためのものになっているのかも。将棋のようなルールがあらかじめ決まっているゲームには通用しませんが。
ゲームの場合、プレイ時間でランク分けしていくといくというのを提案してみます。プレイ時間が短い人と長い人を完全に別扱いしてしまうと。ネットゲームはプレイヤーのプレイ時間による差というのがすごく大きいので、特にそういう対策は欲しいところですが、MMOみたいに人を一カ所に集めて同じ場所でプレイするのが前提のシステムだと厳しそう…。そういう意味でもMOのほうがいいのかな。
この書籍の梅田望夫氏の感想。
My Life Between Silicon Valley and Japan - 「コンピュータが将棋を制する日」は来るか?
コラム: なぜ人はセカイ系になるのか
羽生名人とは関係なく、今年の4/17に書かれたものですが、似た話なのでメモ。
※関連
ARTIFACT@ハテナ系 - コミュニケーションの可視化が起こす問題
SNSのフレンド登録数やはてなアンテナの登録数を人気ランキングとして見ることによって起こる問題についての思考メモ。
CNET Japan Blog - 梅田望夫・英語で読むITトレンド:インターネットの普及がもたらした学習の高速道路と大渋滞
CNET Japan Blog - 梅田望夫・英語で読むITトレンド:高速道路を避けて生きることは可能か
余談ですが、タイトルを「ネットによっていきなり世界統一ランキングに放り込まれるボクたち」に変えるとSPA!風味。
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−この記事に関連しているかもしれない書籍−
エントリの趣旨からは逸れてしまうのですが、『決断力』は悲しい形で週刊誌に取り上げられてしまっています。
棋士・羽生善治の著書、谷川浩司の著書からパクリ多数
http://tvmania.livedoor.biz/archives/29182561.html
週刊新潮のサイトに立ち読みページがありました。
http://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/20050804/tempo.html
ゴーストライターが同じだったので、起きた事態のようで。
偶然にも今日コナミのネットワーク対戦の話を書いたのですが、やはり同じレベルの人同士で競わせるって重要なんじゃないかと思います。
http://d.hatena.ne.jp/shibacho/20050731/p2
加野瀬さんがおっしゃるMMOのご提案と思想としては一緒だろうと思いますが。
世界で単一のランキング問題は、1992年ごろに大学のネット(ゲーム)で問題になって、いろいろ議論したことがある。当時ネットを探ってみると既に議論されていたし、新たに論文を書いた人もいたはず。
ネットゲームは、ランクが上がれば上がる程取得できる点数を低くするという方法で、次元が異なる程のランクの差異があるユーザを分離する方法が昔から知られています。
http://d.hatena.ne.jp/kanose/20050730#c
こちらの続きですか。
次にまた同じことをやったら、「過去に自分が話題した事を見かけると、とりあえずその事実は言わないと気が済まない。ただし具体的な資料などは提示しない」というのを「cavoriteメソッド」と名付けますので。
なお、ネットゲームの実例に関しては、その機能を実装したゲームはあるものの、それによってすべてが解決している訳ではありません。だから、いろいろ提案したのです。
僕が最初に読んだ記事は、これです。
http://semiprivate.cool.ne.jp/blog/archives/000278.html
「100年前だったら、村で一番笛が上手かった奴は、それを誇りに生きていけた。
50年前だったら、都会に出て行って、自分と同等以上に上手い人とあう。
現在では、CDを聞き、インターネットで世界中の情報を見て
絶望する
イチバンにはなりようのない世界。
上には上がいる。それは昔から一緒だ。
しかし、世界で一番上の情報が、いきなり目の前にさらけ出される。
階段を何段登ればそこに追いつくのか?」
加野瀬さん、はじめまして、こんにちわ、
境界が溶けていくといのは、すさまじいことが起こってくることなのだと実感します。なんというか、現代社会のひとつの特徴というのがすべてがつながり、すべて瞬時に伝わるということなのでしょう。
http://hidekih.cocolog-nifty.com/hpo/2004/03/post_13.html
この結果として起こってくる現象は、バラバシの「新ネットワーク思考」などで書かれている「べき乗則」という形で記述可能です。強制されるとか、なにかいまとは違う力が働くわけではないのですが、結果的に境界が溶け出してくるとつながっているものごとすべての中でより大きな集中が生じ、大きなハブとごく小さなノードという構成になることが多いようです。「大渋滞」ですね。
「世界ランキング」に放り込まれることにより、やる気だけでなくいろいろなものが奪われていくのかもしれません。危険な感じがします。世界をどう再分割すべきか、どうスローライフにするかというのは、結構大きな課題であるように感じます。
すみません、誤記訂正にだけ書かせてください。
羽生さんは四冠(王座、王位、王将、棋王)ですが、
現在の名人は森内さんです。将棋ファンには看過できぬ
ことなので、失礼ですが、指摘だけさせていただきました。
そこでsnsの出番かと
世界レベルではあまりおもしろくない人でも
仲間内ではネタしとしてヒーローに
インターネットからして、「お山の大将気取りを叩く」傾向が強いですからね。
あらゆることを調べた上でなければ下手なことは書けない、という風潮が2chに限らずあると思います。
Excerpt: いろいろなページを見ていると『決断力』(羽生善治著、角川oneテーマ21)が好評のようです。アクセス数の多そうなページにリンクしておきます。 Passion For The Future: 決断力 ARTIFACT ―人工事実― | ネットによっていきなり世界統一ランキングに放り込まれると努...
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Excerpt: ARTIFACT ―人工事実― | ネットによっていきなり世界統一ランキングに放り込まれると努力する
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Excerpt: もう勝ち抜き戦の時代は終わりだよねと思っていたのですが、場所によってはいまだに勝ち抜き戦が重要らしい。 もっとも、「ランキング」という言葉に過剰反応するのは1970年代生ま
Excerpt: [http://artifact-jp.com/mt/archives/200507/networkworldranking.html:title=ネットによっていきなり世界統一ランキングに放り込まれると努力するモチベーションを持ちにくくなる] 情報化が進んだ結果、いきなり「てっぺんのレベル」を見せられると、そのレベルと自分の...
Excerpt: ネットによっていきなり世界統一ランキングに放り込まれると努力するモチベーションを持ちにくくなる なんだかものすごく腑に落ちた。段階を踏まず、いきなり大会に放り出される不安と憂鬱。よく分かる。鴻上尚史が言っていた「才能とは夢を見続ける力である」という言葉...
Excerpt: いつも応援ありがとうございます。昨日は5位でした。今日は何位になっているでしょうか?----------------------------今朝のカザフスタン・ウラルスク:9時-3℃:曇り----------------------------11月17日は「将棋の日」らしいですね。なんたる偶然!!↓なつかしい...
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