オタク定点観測 1999/07
[第13回]−アニメの《動き》は快感を生み出す

 あなたがいっぱしのオタクなら、アニメを見る時は作画レベルを気にしていることだろう。ただ、ここ近年、アニメの作画に関して、静止画での美しさばかり語られている気がする。キャラの顔はどうか? セルの仕上げは? 最近、作画の話題の時に「画質」という単語を聞くが、これは静止画レベルでの絵のクオリティを指しているのだろう。静止画重視の時代らしい単語だと思う。
 しかし、セルのクオリティは仕上げの問題であり、アニメーターとは関係ない。また、キャラの顔がオリジナルのデザインに似ていても、ちっとも動かないのではアニメとはいえない。紙芝居である。
 やはり、アニメをアニメたらしめているのは《動き》だろう。80年代には、アニメ雑誌でアニメーター特集がよく組まれ、アニメの作画が熱心に語られた時期があった。その頃、作画を語る時に一番のポイントとなったのは《動き》だった。より正確にいえば《タイミング》である。《タイミング》は、あまり聞き慣れない単語だと思うので、少々解説を。アニメの作画というのは、まず原画マンが、動きのポイントとなる絵「原画」を描く。次に、原画マンが指定した通りに動画マンが動画を描く。原画マンは動画に対して、どういう風に動かして欲しいか指定をしなければならない。これを《タイミング》と呼ぶのだ。
 その《タイミング》を魔術師のように操ったのが、かの金田伊功氏である。よく言われることだが、日本のアニメは、ディズニーのような1秒間に24枚の絵が動くフルアニメーション(1コマ撮り)ではなく、1秒間に8枚の絵が動くリミテッドアニメ(3コマ撮り)である。3コマ撮影はテレビアニメ全般に使われ、2コマ撮影は動きを重点的に表現したい時に使われる。
 そのリミテッドアニメの制限を逆手にとって、金田氏は独創的なタイミングを生み出した。力を溜めに溜めて一気に動かす。強烈なパースをつけて、印象的な画面構成にする。そのため、登場人物が変なポーズになっても気にしない。これはのちに「金田ポーズ」と呼ばれ、マニアの間でよくネタにされたのは余談。
 最近は実写さながらの作画というのが流行だが、アニメは存在しないものに生命を与えることができるという醍醐味を持っている。たとえ、落書きのような人間であっても、それが動き出せば、何らかの意思を持っているかのように見える。『クレヨンしんちゃん』の劇場版が端的な例だろう。線が少ない絵でも動き出すと素晴らしい魅力と確かな説得力を持つのである。
 普通、アニメを見る時に、キャラの魅力やストーリーの面白さに注目するが、《動き》というのは、そのような理性的な魅力ではなく、もっと原始的な魅力なのだ。見ているだけで脳内にドーパミンが発生するような感じである。もはや快感といえよう。一度この魅力にはまるとジャンキーのように《動き》の良いアニメを探し出す。一番嬉しいのが、テレビアニメでオーバースペックな《動き》を見た時。もちろん劇場用アニメやOVAでいい作画の作品もあるが、それは当然という気がしてありがたみが薄いのだ。現場の方、贅沢いってすいません……。
 キャラの魅力、ストーリーの面白さとともに、《動き》に注目してアニメを見られるようになると、よりアニメを深く楽しめると思う。更にはスタッフに注目して、スタッフを見ただけでアニメの出来が推測できるようになると一人前のオタクといえよう。しかし、そんな人間になったとしても誰も誉めてくれないと思うが……トホホ。

掲載=カラフルPUREGIRL 1999年7月号(ビブロス刊)

■コメント
 アニメの魅力として「動き」を語られることがなくなってきたので書いたもの。どうして「動き」を見るのが楽しいのか、触れられると良かったんですが、文字数が足りないので簡単な説明にしています。世の中には『セーラームーン』の変身シーンを見るだけで、ゲラゲラ笑える人もいまして、これはバカにしているのではなく、すごさに対する反応として「あんたらやりすぎ!」と笑っているのです。
[Profile]
ガンダム雑誌G2O Vol.5(発売中)にて前嶋重機さん、平野俊幸さん、江墨淳子さんにイラストをお願いしました。もちろんDOWさんもいつものように描いてもらっています。ちょっと違う印象の雑誌になって面白かったです。
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