オタク定点観測 1998/06
[第3回]−今、繋がっている感覚

 このコラムのタイトルは筆者が昔好きだったパルコの雑誌「アクロス」の人気連載から引っ張ってきている。アクロスとは、パルコ出版が出しているマーケティング雑誌で、現在も発行されている雑誌だ。人気連載「定点観測」は街ゆく人をランダムにピックアップして、ファッションを解説する記事であり、時代の移り変わりがよくわかる記事であった。自分にとって、この雑誌の全盛期は80年代末期から90年代初頭のバブル時期なのだが、このコラムのタイトルは当時のアクロスへの敬意だと思ってくれても構わない。そのアクロスをオタク視点で見ると、1990年10月号の特集「新形態ネットワークの時代」は、大変興味深い。遊演体のネットゲーム(手紙によるRPG)やアイドルマニアのネットワークなどを取り上げているのだが、強力なネットワークをオタクを好意的に見ている。そう、オタクとネットワークというのは切っても切れない関係なのである。今回はオタクとネットワークという視点で見ていこう。
●落書きボード
 オタクが不特定多数の人とコミュニケーションする場所として、東京ならJR代々木駅やJR水道橋駅にある落書きボードを思い出す人もいるだろう。どんなものかというと、ボードに漫画系の絵や日記的な事が書いてあったりして、それに対して他の人が返事をするというもの。この落書きボードは、元々、受験生が合格祈願などを駅の壁に落書きして、困った駅側が対策として落書き用の紙を貼りだしたことから始まる。最初は、合格祈願など受験生らしいネタが多かったが、いつしか漫画絵が増え始めて、ついにはオタクのメッカとなるのであった。
●ゲーセンノート
 さて、現在、もっとも一般的だと思われるオタクのコミュニケーションの場所は、ゲームセンターに置かれたコミュニケーションノート、通称「ゲーセンノート」であろう。ゲームセンターの一角にノートが置かれており、そこに最近のゲームの話題や情報、絵などを書き、他の人から返事をもらって進んでいくというモノ。ゲームセンターのノートは、不特定多数の人間に見てもらいやすいという点が優れていたが、その場所に行かないと見られないというのが最大の弱点である。
●同人誌
 同人誌を作る事によって、読者から反応がもらえる。その感想からコミュニケーションが始まり、一緒に同人誌を作る仲間ができたりする。知り合いとなった人とは、同人誌即売会で実際によく会うことになる。これは、技術が進歩してもなかなか朽ちることはなさそうだ。同人誌から生まれるコミュニケーションは、手紙が主だったが、最近は手軽なFAXが多い。
●パソコン通信
 時間や場所の制限がなく、好きな時にコミュニケーションが取れるのがパソコン通信だ。パソコン通信は、主に電子掲示板(以下BBS)BBSとファイル登録システムが主な機能である。文化的側面から見ると、商業ネットも重要だが、草の根ネットも重要である。草の根ネットというのは、個人が善意で立ち上げたパソコン通信のネットのことである。電話回線/パソコン/BBSのプログラムさえあれば、始められるので、一時期は乱立といえるぐらい、草の根ネットがあった。中でもCAT-NETや東京BBSのように多回線の大規模草の根ネットは、人がかなり集中しており、情報の最先端だった。
 便利に思えるパソコン通信だが、みんなが同じAというネットに入らなければ、そのネットの機能は一切使えないという問題があった。そのため、大規模ネットにより人が集まっていったのだが、インターネットの普及により、その傾向は小さくなっている。商業ネットはインターネットに押され、ボランティアで運営している草の根ネットは、閉鎖したり、インターネットに場所を移していく。パソコン通信は時代の役目を終えようとしているのだ。
●インターネット
 という訳で現在主流のネットワークがインターネットである。ここでインターネットの華、WWWを、個人間のコミュニケーションという視点から見てみよう。パソコン通信において、コミュニケーションが発生するのは、BBS上における書き込みからである。しかし、書き込みというのは、BBSの話題の流れからはみ出したものは書きにくく、どうしても書き込む話題が限定される。そのため、作品を発表する場としては適していなかった。ところが、WWWなら自分で好きなように作れる。WWW自体が詳細な自己紹介となり、ネットの書き込みに比べると圧倒的な情報量が詰め込めるのだ。BBSでは、ある程度会話をしなければ、相手の人物像はつかめない。しかし、WWWなら、WWWを作った人物像というのは掴めやすい。そのため、メールやWWW掲示板でのコンタクトが取りやすい訳だ。ここで、また掲示板がでてきたが、これは日本のWWW独自の文化だ。海外では、同好の士のコミュニケーションの場としては、MLことメイリングリストが主流なのである。

 という訳でオタクのコミュニケーションの場をいろいろ紹介したが、どの場所でも言えるのが、絵描きは強いという事。オタクの間で絵が描けるというのは強力な武器であるのだ。また、コミュニケーションの場では当然トラブルも発生する。面白いのは場所が変わっても、トラブルはほとんど同じという事。次の機会にそれを紹介しよう。

⇒「絵の鑑定能力をあげよう」番外
 先月号の本コラムに結構な反応があって、ありがたい限りです。具体的にどんな絵がいいのか教えて欲しいという声がありましたが、それはピュアガールの巻頭のイラストコーナーなどを見ていただければわかるのではないかと。

掲載=PUREGIRL 1998年5月号(ジャパン・ミックス刊)

■コメント
 オタクの思想的な部分への言及はいろいろされてきましたが、こういうオタク民俗学(?)っぽい的な部分は、いまだにあまり言及されてないと想います。単にこれらを経験してきた世代の人間があまり発言していないせいかも知れませんが。
 この後、インターネットはどんどん普及して、インターネットの内部でまた複雑な様相を呈したのはもちろんご存じだと思います。これに関しては誰かが考察してくれればなんて思ってますが、できることならいつか考察したいものです。
 Profileで取り上げた『ブギーポップは笑わない』は2月に発売されたので、これを書いた4月はまだ口コミレベルで話題になっていた頃です。これと書評で『ブギーポップは笑わない』を取り上げていて、上遠野浩平氏が編集部にハガキを送ってきてくれたのにはびっくりしました。
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少年エースダッシュで待望の森美夏氏の新連載『木島日記』が始まった! 『北神伝綺』とともに読むと楽しさ倍増? それと電撃文庫の『ブギーポップは笑わない』(上遠野浩平著)は面白いのでおすすめ。
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