オタク定点観測 1998/05
[第2回]−絵の鑑定能力をあげよう

 どうしてこの絵がウケるのか? そう思ったことはないだろうか? ない人は幸せである……。ここにおける「絵」は漫画・アニメ系の絵と定義しておこう。しかし、以下の話は、細かい部分を除けば、絵に関しての一般論でもあると思う。
 こんな疑問を感じるのは、大抵絵描きだ。絵描きが絵を見る視点というのは、絵を描かない人間にはどうも理解しにくいらしい。そのまた逆も然り。
 このギャップはどこから生まれるか? これは、絵をどのぐらいを見たかによる。絵描きは絵をたくさん見る機会が多いから目が肥える。そのため、生半可なモノでは釣られなくなる。しかし、絵を見る経験値が低い人はちょっと美味しい餌(エッチな絵だったり、流行の絵柄に近かったりする)がちりばめられていると、すぐ飲み込んでしまう。とある人が、絵描きが好む絵は「玄人好み」、絵描きでない人が好む絵は「素人好み」と表現していた。「玄人好み」は「通好み」ともいえるだろう。
 素人好みの絵の特徴はいろいろあるが、カラーの場合はセル塗りのようにはっきりした塗りというのはウケやすい。先月号のMartin 李さんのコラム「おまえこそ、いいかげんに!」で触れられていたピカ塗りがいい例である。ちなみに、はっきりした塗りが悪いと言っている訳ではなく、陰影や質感を考えない塗りが悪いといっているだけなので誤解しないで欲しい。また、よく人気アニメーターの絵柄を真似したような絵を見かけるが、こういう絵を支持する人は、大抵絵を描かない人間である。絵描きならオリジナルを知っているから、その絵に個性がない限り、興味を示さない訳だ。ただ、絵描きの中でも、絵の経験値が低い人は、絵描きでない人間と趣味が似ることがあるので注意。
 当然、玄人の方が少ないので、絵描きがこれはいい絵だ、と主張しても、それが理解されないことも多い。今月号ではそれがわかるいいサンプルがあるので紹介しよう。『雪色のカルテ』の緒方剛志氏の絵というのは、人によっては売れる絵とは思えないらしい。営業さんは、ソフトの流通に絵がダメだから売れないね、と言われたとか。「首相、もう許せません! 奴らに牙指令を!!」「うむ、牙を突き立てろ〜!」 いかん、つい興奮してしまったが、流通の見る目なんてそんなもんである。実績がなければ、まともに取り扱ってくれない。もちろん商品がヒットすれば、コロっと態度が変わるのだが。
 さて、現在、売れている人にも当然過去がある。たとえば『センチメンタルグラフィティ』で人気爆発の甲斐智久氏だが、この人も数年前は同人誌で絵を描いているどこにでもいる人物であった。しかし、何か光る物を持っており、自分も同人誌を買ったものだ。その後、ゲームの大々的な宣伝活動によって、あれよあれよという間に大ヒットしてしまい、コミックマーケットでも有数の大手サークルとなった。
 これに限らず、大ヒットが出るのは、既にメジャーな人よりも、まだメジャーになってない人の場合が多い。ギャルゲーのように絵が重視されるゲームを作ろうという人ならこれをよく憶えておいて欲しい。既に売れている人を引っ張ってくればいいだろうと思っている人は考え直した方がいいぞ。
 実際にどういう絵がいいのか?と問われるとそれは言葉では説明できない。ただし、絵の判別能力を向上させる方法はわかる。
 一番、絵を見る能力を鍛えられるのは同人誌即売会だ。美少女漫画雑誌では、よくコミックマーケットで作家をスカウトするのだが、とある美少女漫画雑誌の編集部でもコミケがあるたびに作家スカウトをしている。しかし、ほとんどの編集部員がみんな壁際サークル(コミケでは人気サークルは壁際に配置されている)に走るという。そして既に商業活動している作家の同人誌を買ってきて、「こんな人を見つけてきました!」と言うそうな。これではいけない! 壁際サークルというのは既に評価が定まっているサークルなのだ。そこは誰でもチェックする。鍛えるための習練場は、壁際ではなく、中側のサークルである。まずカタログカットでアタリをつけ、チェックしたサークルを片っ端から回る。また、歩いていて、ちょっと気になったサークルの同人誌はばんばん買う。そして、終わった後に、冷静になって、これは買うべきだったかどうかを判断するのだ。最初のウチは顔の絵だけで判断してしまいがちが、だんだん全身の絵を見て絵の総合的評価ができるようになる。
 同人誌即売会にまで出かけるのが面倒だという人には、WWWでの探索をおすすめする。ふらふらとWWWを見回りながら、よさそうな絵をチェックしていくだけ。慣れると、TINAMIのプレビュー画像を見るだけで、そのWWWがどんな感じか予想できるようになる。予想と現実に差がなくなってきたら、絵描き鑑定人として一人前になってきた証拠だ。
 要は、たくさん食べて(絵を見て)、毒に当たったりしながら、勘を養おうということである。
 しかし、こうやってせっかく絵描きを捕まえても、それを逃してしまってはどうしようもない。何かというと、ギャルゲーは続編になると絵が変わってしまうという話である。絵が変わったゲームの裏話を聞くと、どうも絵描きが金銭面で冷遇されて、それで決裂、ということが多いようだ。ゲームの人気がすべて絵描きのおかげだとはもちろん思わないが、ギャルゲーの場合、人気は絵描きによるものが大きいのも事実。それを知ってか知らずか、絵描きを金銭面で冷遇するというのは、目先の利益にこだわった行動ではなかろうか? 絵描きをもっと大事にした方が、最終的にはもっと儲かると思うんですけど、どないでしょか?(ニセ関西弁)

掲載=PUREGIRL 1998年5月号(ジャパン・ミックス刊)

■コメント
 なんか、いきなり第1回目と分量が違いますが、1回目は半ページで、2回目はほぼ1ページでした。
 ウケる絵。難しい問題です。よく、どういう絵が受けるんですか?と聞かれるんですが、最近(2002年春頃から)「匿名性の高い絵」と答えています。よく見かけるような絵なんだけど、なんとなく記憶には残っている…、そんな絵柄を「匿名性の高い絵」と称しました。昔は、個性が重要だったんですが、今はどうも個性は絶対条件ではないようです。あと、絵描きにウケやすい技術力が高い絵は、このギャル絵全盛の時代に、ますますユーザーに受け入れられにくくなっています。高い技術力を持って成功するためには、寺田克也氏における『バーチャファイター』のような、絵以外の面で何か話題になるための「事件」が必要です。
 それと、絵描きが変わった続編ゲームに苦言を呈していますが、実はそれで売り上げがすごく落ちたゲームというのは意外とありませんでした。ゲームユーザーは、一定以上のレベルの絵であれば、それほど気にしていないようです。絵だけで売れる時代は終わりつつあったということなのでしょう。
 Profileを見て思い出しましたが、『はれときどきぶた』は面白いアニメでした。ナベシンアニメの中では一番好きかも。ゲストキャラクターのガイコツ大統領がなぜか美少女に変身するという回があったのです。
[Profile]
ゲームやパソコン方面の出版社を渡り歩き、現在、ゲームや漫画関係のライターとしてへろへろ活躍中。『はれときどきぶた』のガイコツ大統領娘っこモードに萌え〜☆(バカ)。
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